【PXE(弾性線維性仮性黄色腫)の疾患概要】

以下は、PXE Internationalがウェブサイトで公開している「PXE General Bulletin」(by Lionel G. Bercovitch, MD, Medical Director; Sharon F. Terry, MA, Executive Director; and Christine M Vocke, MS, Director of Education and Information)2010年改訂版の全文訳です。日本語訳はPXE Internationalの許可を得て2017年11月に作成しました。(訳・丸山博)

<この情報は、米国に本部があるPXE Internationalによって作成されているため、日本の状況と多少異なる可能性もあります。それらについては担当医にご相談下さい>

 

このページの項目

・PXEとは 

PXEはどれほど稀か

診断につながる初期症状

PXEの症状

・皮膚

・目

・心臓血管系

・胃腸系

・妊娠

乳房と精巣の石灰沈着

どのような医療が必要か

家族も発症するか

どのような研究がおこなわれているか

より詳しい情報をどこで得られるか

PXEに詳しい医師を紹介できるか

 

【PXEとは】

弾性線維性仮性黄色腫(Pseudoxanthoma elasticum, PXE)は、身体の特定の部分の弾性線維(elastic tissue)にカルシウムや他のミネラルが沈着し、弾性線維が変性・石灰化する病気です。遺伝性疾患です。皮膚、目、心臓血管系、胃腸系が障害されます。100年以上前から確認されています。近年、重要な進歩がいくつもありました。

 

【PXEはどれほど稀か】

PXEの発症率は2万5000人~10万人に1人ほどと推定されています。しかし、正確な数は不明です。まだ診断されていない患者がいる可能性もあります。一生診断されない患者もいるかも知れません。特に、症状が軽かったり非典型的だったりする人の場合は診断されていない可能性があります。

 

【診断につながる初期症状】

多くの場合、皮膚における変化がPXEの最初の症状で、確かな診断につながります。PXEの症状と、それが始まる年齢はかなり多様ですが、多くの人はまず、皮膚の見た目の異変に気付きます。大抵それは、首の横か後ろです。丘疹と呼ばれる小さな隆起か病変が現れることがあります。これは、発疹、または、洗っていない首のようだと表現されます。PXEの診断を確定するために、病変の生体組織検査を行うことが多いです。生体組織検査は、首や脇の下、肘の内側からとても小さな皮膚片をとって行います。生体組織検査は、組織内のカルシウムを検出するために行うvon Kossa染色という特別な染色方法を用いて行います。

 

目における変化がPXEに気付く最初の症状である人もいます。目の初期の変化は、眼底検査でのみ発見できます。後に中心視野の欠損を伴う自覚症状となることがあります。中には、自分の視野のゆがみに気付いたときに初めてPXEと診断される人もいます。

 

【PXEの症状】

PXEにはさまざまな兆候と症状があり、数、種類、深刻さにおいて個人差があります。健康上の深刻な問題を引き起こす症状もあれば、そうでないものもあります。PXEが引き起こすものとして、皮膚、目の網膜、心臓血管系、胃腸系の変化があります。目の網膜の変化は、中心視野の重大な喪失につながることがあります。心臓血管系の変化は、動脈の石灰化を伴うことがあり、腕と足、心臓や脳への血流を減少させることがあります。胃腸系の変化は、胃や腸からの出血につながることがあります。

 

現在、各個人の病気の進行具合を予測する方法はありません。患者でありながら、皮膚病変がない人もいれば、視力喪失がない人もいます。胃腸系の合併症や心臓血管系の障害を経験しない人も多くいます。皮膚の生体組織検査の結果が陽性になったり、網膜色素線条症があったりしても、その他にPXEの症状がまったく出ない人もいます。PXEの症状と進行速度には明確なパターンがないとみられます。PXEの症状は非常に多様なのです。

 

【皮膚】

PXEはしばしば、目に見えるさまざまな変化を皮膚に引き起こします。これらの変化には個人差があります。最初期の変化は、首の横の皮膚に現れることが多いです。丘疹と呼ばれる小さな病変が生じることがあります。それらは、発疹、または、丸石を並べた石畳のような外見に似ています。皮膚におけるこれらの病変は、ゆっくり、そして、予測できない仕方で首から下の方へ進行することがあります。時間の経過とともに、その病変は合わさって斑点を形成することがあり、皮膚は弾力がなくなりしわが寄った状態となることがあります。皮膚におけるPXEの症状は、小さな子どもでも起こり得ます。身体の部位で最も冒されやすいのは、曲げ伸ばしする部分です。首、脇の下、肘の内側の皮膚、そけい部、膝の裏の皮膚が徐々に影響を受けることがあり、これらの部分の皮膚のたるみにつながります。これらの変化の中には、整形手術によって軽減できるものもあります。病変はまた、下唇の内側、直腸の内壁、膣にも表れることがあります。しかし、これらは自覚的な症状や外見上の異常は引き起こしません。

 

皮膚に明白な病変がなくても、PXEの患者であることがあります。皮膚科専門医による慎重な診察で皮膚に病変が見つからなくても、生体組織検査で陽性となってPXEの診断につながることもあります。

 

【目】

PXEの影響は目の網膜にも表れます。初期の変化は、瞳孔を開いて行う眼底検査でのみ発見できます。網膜オレンジ皮様外観と呼ばれる病変で、網膜がオレンジの皮の表面のように見えるため、そのように呼ばれています。網膜オレンジ皮様外観は幼少期か十代で表れることが多いです。ほとんどの患者の網膜に、網膜色素線条症(angioid streaks)と呼ばれる独特の不規則な筋が生じます。幼少期で発症する人もいます。網膜色素線条症は、ブルッフ膜(Bruch’s membrane)と呼ばれる、網膜の後ろにある弾性線維が豊富な膜にできる亀裂です。網膜オレンジ皮様外観も網膜色素線条症も視力に直接は影響しません。どちらも、視力喪失に気づく前に表れます。この層の下にある小さな血管は、このブルッフ膜の裂け目を通して伸びてきます。伸びてきた血管は脈絡膜新生血管(choroidal neovascularization, CNV)と呼ばれます。この血管から体液が漏れたり出血したりすることがしばしばあります。この出血は、中心視野のゆがみや喪失につながります。PXEの患者は中心視野を失って社会的失明(legally blind)になることがありますが、そうなったとしても、ほとんどの人は、周辺視野を維持し続けます。

 

PXEに罹っている人は中心視野を自分で測定するために、アムスラーグリッドを使うことができます。もし、網膜の中心で隆起や出血が起きていれば、アムスラーグリッドの交差線がゆがんで見えることになります。網膜の専門医は、患者に、アムスラーグリッドの使用を指示することがあります。アムスラーグリッドを見てゆがみが認識された場合は、ただちに網膜専門医の診察を受けるべきです。

 

加齢黄斑変性(age-related macular degeneration, AMD)に対する最近の治療法のいくつかは、特に、血管新生を抑えるための眼内注射であるルセンティス(Lusentis)やアバスチン (Avastin)のような薬は、現在、PXEにも広く使われていて、加齢黄斑変性に対するのと同じくらい効果があるとみられています。

 

脈絡膜新生血管からの体液の漏れや出血を止めるための光凝固術と光線力学レーザー療法は、もはや、PXEにとっては第一選択肢ではありません。ほとんどの場合、出血やレーザー手術による傷跡は視力を悪化させました。

 

さまざまな道具を使うことによって、残った視力を最大限生かしたり、視覚障がい者が自活を保ったりすることが可能になりました。ロービジョンの専門家は特別な道具と図を用いて、視力を検査できます。ロービジョンのリハビリテーションサービスでは、ひとりひとりのニーズに合った器具を提供できます。PXE Internationalはあなたの地域のロービジョン対応サービスを探すことができます。

 

PXEに罹っている人は、目に衝撃を与える接触スポーツなどの活動を避けるべきです。なぜなら、これらの活動は網膜での出血を増長する可能性があるからです。重量挙げのように息んで呼吸を止める動作は、目への圧力を高めてしまうので、避けるべきです。

 

【心臓血管系】

PXEによって、中規模の動脈内にある弾性膜が変性・石灰化されることがよくあります。その場合、血管が細くなり、腕と足への血流が減少することがあります。腕や足への血流が減少すると、くるぶしより下の足や手首では脈拍が感じられなくなることがあります。腕と足への血流が減少すると、歩いたり運動をしたりしている時に、足や腕のけいれんや痛みをもたらすことがあります。これを間欠跛行と呼びます。

 

動脈が狭くなることと、血流が減少することは、狭心症(胸痛)、心臓発作、脳卒中、腹部アンギーナ(腹痛)を引き起こすことがあります。

 

高血圧は、PXE患者のほうが一般住民よりも多い可能性がありますが、これを裏付ける大がかりな研究はされていません。心臓発作と脳卒中のリスクを減らすために、高血圧については積極的に治療すべきです。

 

PXEの患者は、主治医を定期的に訪れ、血管やコレステロール、腕と足の脈拍を観察するべきです。低脂肪の食事をして十分な運動をするという心臓の健康に良いライフスタイルが推奨されます。また、適正体重を維持すること、タバコを吸わないこと、継続的に運動をすることは、PXEによる血管の合併症を減らしたり遅らせたりするために重要です。

 

【胃腸系】

PXEはごく稀に、上部消化管の深刻な出血を引き起こすことがあります。これはすぐに自覚されないことも多く、生命を脅かしかねません。吐血したり、黒いタール状の便をしたりします。胃や腸のさまざまな部分から出血することがある、ということだけは分かっていますが、どのような原因で出血しているのかはまだよく分かっていません。稀に、潰瘍による出血と間違えられることもあります。PXEがある人で、消化器に何らかの問題があれば、PXE患者であることを医師に必ず伝えるべきです。PXEがある人は、アスピリンやイブプロフェン、ナプロキセンのような非ステロイド性抗炎症薬の服用を避けるべきです。なぜなら、それらは、胃の表在性びらんを引き起こすことで、胃腸からの出血のリスクを増やすからです。

 

【妊娠】

PXEがある306人の女性の計795の妊娠のケースについての研究で、PXEがある女性の大多数は、妊娠、陣痛、分娩、産後期を正常に過ごし、そして授乳も普通に行えることが分かりました。PXEがある女性の妊娠中の上部消化管出血の発生率は1%以下です。これは、以前の小規模な研究で報告されたものよりかなり低いです。胎児は、母がPXEだからといって、悪い影響は受けません。その上、40歳以上の女性の皮膚や目、循環器におけるPXEの症状が、過去に妊娠していたことが原因で深刻化することはありません。

 

 

【乳房と精巣の石灰沈着】

PXEがある女性のマンモグラムに関する研究は以下のことを示しています。PXEがある女性は乳房の組織に微細石灰化(microcalcifications)がありますが、その大部分は良性で、乳がんを示すものではありません。これは重要なことです。なぜなら、画像診断医は、マンモグラムで微細石灰化の集まり方を見て、乳がんについて診断するからです。PXEがある女性の乳がんのリスクは、一般住民と同程度で、マンモグラフィーに表れる乳がんのサインは、PXEがある女性もそうでない女性も変わりません。ですから、マンモグラムを行う時は、PXEと診断されていることを医師に伝えて下さい。

 

PXEがある男性の精巣の超音波検査に関する研究で、両方の睾丸でさまざまな石灰化がしばしば起きていることが判明しましたが、大抵の場合、がんとは関係ないと分かりました。これは重要なことです。なぜなら、精巣がんの診断は、超音波検査によって、小さな石灰化の集合を調べて行われるからです。PXE患者男性の精巣がんのリスクは一般住民と同程度です。石灰化が見つかっても、診断が正確に行われるよう、PXE患者であることを画像診断医に伝えるべきです。腹部の超音波検査によって、脾臓や腎臓にも小さな石灰化が発見されています。これらは大抵、PXEによるもので、深刻なものではありません。ですから、画像診断医は、これらの検査結果について正確に評価できるように、PXEの患者であることを知っておくべきです。

 

【どのような医療が必要か】

PXEが新たに見つかった人は、初めは、かかりつけ医や眼科医、皮膚科医、循環器科専門医の診断を受けるべきです。PXEについて熟知している専門家はほとんどいませんから、PXEの患者は、PXEについて学ぶ意欲のある医師を見つけるべきです。「Gene Reviews」には、医療従事者向けの徹底的な医療用の記述があります。医療従事者に見せるためプリントして持って行くのに適した短い記事もあります。PXE Internationalは、眼科医、皮膚科医、かかりつけ医、小児科医、産科医、歯科医向けにオンラインで利用できる報告文を提供しています。(http://www.geneclinics.org/profiles/pxe)

 

かかりつけ医での定期的な健康診断が推奨されます。家族の病歴についても詳しく知っておくべきです。患者の血圧やコレステロール、トリアシルグリセロールはしっかり監視するべきで、異常な値であれば、積極的に治療するべきです。末梢血管の脈拍も監視するべきです。皮膚科医は、診断を確定させることが最も多い医師ですし、患者のためになる整形手術に関して助言を与えることもできます。循環器の専門医は、心電図検査、心臓負荷検査、心臓超音波検査、末梢動脈のドップラー評価を行うべきです。眼科医は、眼底検査でオレンジ皮様外観や網膜色素線条症について調べます。もし、網膜色素線条症が見つかれば、網膜の専門医に診てもらうのが賢明です。

 

【家族も発症するか】

PXEは常染色体潜性遺伝形式で遺伝します。常染色体上にある一対の遺伝子の両方にPXEに関する変異がある場合にPXEの患者となり、発症します。一対のうち一方の遺伝子のみにPXEに関する変異がある場合、症状が現れないキャリアー(保因者)となります。キャリアーは通常、PXEを発症しません。変異のない方の遺伝子が正常な機能を果たすからです。PXEのキャリアーを両親に持つ人は、両親からそれぞれの変異遺伝子を受け継いだとき、PXEを発症します。両親ともにキャリアーである場合、その子どもが患者になる確率は25%です。

 

PXEは常染色体潜性遺伝形式の疾患ですが、二世代にわたってPXEのある家族もいます。PXEの患者とPXEのキャリアーの間に子どもが生まれたとき、その子がPXEの患者となる確率は50%です。

 

二世代に渡ってPXE患者がいる家族は少ないながらもいますが、患者が三世代以上続いた家族の報告例はありません。これは、PXEが常染色体顕性遺伝形式ではないだろうということを意味しています。常染色体顕性遺伝形式の場合、一対の遺伝子の一方のみに変異があっても遺伝します。

 

新たにPXEと診断された人のきょうだいを注意深く見ることは重要です。PXEがある人のきょうだいは、PXEである可能性が25%あります。PXEの遺伝子検査もできますが、すべての変異を見つけられる訳ではなく、しかも、高額です。新たに診断された人のきょうだいや家族は、皮膚の生体組織検査を受けることで、PXEかどうかを診断できます。その人たちはまた、眼科医による眼底検査によって、PXEの症状があるかどうかを確かめることができます。

 

遺伝子カウンセラーは、患者のきょうだいと家族がPXEの患者かキャリアーである可能性について、理解する手助けをすることができます。PXE Internationalでは遺伝子カウンセラーの相談を無料で受けることができます。

 

【どのような研究がおこなわれているか】

今は、PXEの研究にとって、とてもエキサイティングな時です。PXEに関連する遺伝子が特定され、PXEの遺伝子検査もできるようになりました。

 

PXEに関する、臨床研究を含むさまざまな研究によって、いろいろなことが分かりつつあります。何がPXEを特徴づけるのか、どのように進行するのか、何が各器官の症状に違いをもたらしているのか。さらに、細胞と分子のレベルでのより興味深い研究によって、PXEの遺伝子が体内でどのように働くのか分かるようになりつつあります。マウスを使った動物実験で、今後、有効な治療法を研究できるようになります。そして、もしかすると、近い将来、私たちはPXEの治療法を見つけられるかも知れません。必要なのは、研究資金です。科学者たちの準備はできています。

 

目の網膜に関する研究は急速に進展しています。網膜色素線条症、網膜での出血、出血とそれに伴う視力喪失を軽減するための薬、などに関する多くの研究プロジェクトがあります。

 

【より詳しい情報をどこで得られるか】

PXE Internationalは患者と医師向けに詳しい情報を公開しています。PXEによる目、皮膚、妊娠期、幼少期の症状に関する個別の詳しい情報です。小児科医や歯科医向けの情報もあります。PXE Internationalはニュースレターを発行して、最新の研究プロジェクトの内容や成果についてお知らせしています。最新情報はPXE Internationalの世界中の各地域支部で共有されています。これらはすべて、EメールかPXE Internationalのウェブサイトで見ることができます。PXE Internationalはバイオバンクを運営しています。それは、PXEの研究にとってきわめて重要です。さらに、PXE Internationalは研究プロジェクトに対し、手ほどきと資金提供をします。

 

【PXEに詳しい医師を紹介できるか】

あなたが眼科医か皮膚科医を探しているのではないかぎり、私たちはPXEに詳しい医師を紹介することはできません。希少疾患は7000以上もあるので、医師たちはこれらすべてについて熟知することはできません。PXE患者を一人か二人ぐらい診察した経験のある一般開業医や循環器専門医を見つけることは可能かも知れません。しかし、症状は人それぞれ違います。他のごく少数の患者のケースを、あなたにもそのまま当てはめて対処されることを、あなたは望まないでしょう。

 

幸いなことに、身体のさまざまな部分に表れるPXEの症状は、より一般的な他の病気によって引き起こされる症状と似ています。ですから、あなたが見つけるべき医師は、思いやりがあり、親身に対応してくれて、よく話を聞いてくれて、PXEについて学ぶことに時間を割いてくれる先生です。そのような先生に、私たちが提供する医療情報をお読みいただければ、あなたのケアをどのようにするべきかを分かっていただけます。私たちはすでに600人以上のデータを集めました。何か必要なことがあれば、私たちにぜひ相談してください。